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ナンバー938の呟き

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身の程知らずにもわずかばかりの知性をふりかざしてみたくて呟くのである

「ねじまき少女」パオロ・バチガルピ著

 ギブスンの「ニューロマンサー」以来の処女長編でのヒューゴー&ネビュラ賞受賞作である。しかもローカス賞までというこの年の長編SF賞を総なめした作品。ヒューゴー賞は読者投票でネビュラ賞は作家の投票という違いがあるので、どちらをも満足させる作品はそう多くはない。しかも全体に暗めの近未来を描いた作品である。
 地球環境の悪化で、水辺に近い都市は水没の危機を迎えているし、石油資源が枯渇しているので、化石燃料は石炭ぐらい。ゼンマイ動力がその代わりをしているのだろう。遺伝子操作技術の失敗からか、植物には疫病が蔓延し、ジーン・ハックゾウムシがわずかばかりの緑をも食べつくしてしまっている。舞台はバンコク。物語は、危機的な状況でも権力闘争に明け暮れる人類と、その中に巻き込まれた遺伝子操作で生まれた少女型アンドロイドの運命を描く。
 バンコクを警備する白シャツ隊のジェイディー隊長。その部下の笑顔を見せないヒロインのカニカ。タイ王国に食い込もうとする西洋人アンダースンとカーライル。マレーシアでの大虐殺から逃れてきたイエローカード難民のホク・セン。タイ王国の権力を握ろうとする官僚制力。どの登場人物にもそれらしい奥行きがあって憎めない。それぞれの視点で場面は展開してゆくので時間経過が分かりづらい面もあるが、読みやすい文章なのでついページをめくってしまう。
 期待の大型新人という評判であるが、評判に違わない面白さだといえるだろう。ただこの物語には教訓がない。人類は愚かなだけだ。
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by kkusube | 2011-06-06 21:11 |