人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ナンバー938の呟き

kkusube.exblog.jp

まったくのアホながら わずかばかりの知性をふりかざしてみんとて 呟くのである

金星応答なし

「金星応答なし」ハヤカワ文庫SF419 489p
 (2006/4/4~4/21)

 81年1月31日発行。24歳になった頃、貝塚駅前のブックスマウントで2月3日に買った本である。
 本国での刊行から30年、買ってから25年か過ぎ、ここ55年ほどの間に科学面での情報は大幅に変わってしまっているが、ストーリーを支える人間の物語はいまでも十分に楽しむことが出来る。
 2部構成で、第一部はツングース隕石の調査にまつわる話。金星から打ち込まれたロケットであると判明し、地球に危機が迫っている可能性が示される。火星探査向けに建造していた探査船を急遽金星向けに改造し、科学者たちを乗せて、平和的な解決を図るために金星探査に出発する。この部分は読んでいても情景がすぐに浮かび、いまの技術で映像化したら面白いだろうなと思えた。
 第二部はパイロットの日記。金星探査船コスモクラートル号のパイロットで黒人のロバート・スミスの手記という形で、金星までの道中の顛末から、金星に降り立って探査を始めて帰還するまでが描かれている。ここで描かれる金星は、後のソラリスであったり砂漠の惑星であったりで、地球の荒野に似た異境である。しかも金星には都市の残骸が残っていたが、金星人の姿はどこにも見つからなかった。長い探検話の中に、怪物は姿をあらわすこともない。映像化しても随分と冗長に感じられるかもしれない部分である。結末も楽天的な人間性善説のような終わりかたになっている。
 レムの20代の若書きの作品の中では唯一日本語で読める作品で、社会主義国家に対する希望に溢れているし、科学者たちの姿も立派な人ばかりで、作者の青春を感じさせる。レムはこの作品を全く評価していないが、それでも再版を許可しているあたりに、愛着はあるのだろうと思う。当時の情報入手の限界からくるファンタジーとして読めば何の問題もないし、作者自身が幾度となく死線を越えなければならなかった暗く厳しい戦争のあとの、平和への希求感がにじみ出ている作品である。
金星応答なし_a0042660_7592959.jpg金星応答なし_a0042660_7595040.jpg
by kkusube | 2006-04-22 10:15 |

by kkusube