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ナンバー938の呟き

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まったくのアホながら わずかばかりの知性をふりかざしてみんとて 呟くのである

ソラリス

「ソラリス」国書刊行会 345p
 (2006/5/18~5/25)

 最初に読んだのは高校の図書館にあった世界SF全集版だから、30年以上も前のことになる。とてつもない印象で、何を書いてあるのか理解できないままに、こういう話を書く人がいるのだと思った。ソラリスをおおう海そのものとのコンタクトの話ではあったのだが、その後大学生になって「惑星ソラリス」というタルコフスキーの映画を見て、ヒロインのハリーの印象が強く残った。今回読み直してみて、この物語はハリーの話ではなく、未知の生命体と人間とのコミュニケーションの話だということを再確認したし、さまざまな読み方ができる、何度噛んでも噛み切れない奥行きと仕掛けの詰まった話であることを痛感した。
 1961年に本国で刊行され、レムのSF作品の中でももっとも人気のある作品。「地球外の知性体との遭遇について描かれた、最も哲学的かつ科学的な小説。広大無辺な宇宙空間において、理解不能な事象と愛の記憶に直面し、人は何をなすべきか」というようなストーリーなのだが、ストーリーの展開をなぞって楽しむのではなく、それぞれの章ごとに投げかけられた問題を考えながら読み進める作品。その分、読むほうに努力を要求するし、何度か読み直すごとに違った解釈が生まれるかもしれない。
 そもそもレムは最後まで結末を決めておいてから、作品を書くタイプではないらしい。しかも、同じパターンの作品は書かないと決めているらしく、毎回違うパターンの作品になっている。アイディアを展開するにあたって、その場での集中力の高まりにまかせて作中の登場人物が勝手に動き出すのを待って、いわば神がかりで記述するのだとという、プロットよりも作品の力を信じて書くタイプ。だから、知性をもった海というはどんなものだろうと考え出したら、たまらなくなって話が展開していったのだろうし、主人公ケルヴィンの行動も最初から決まっていたわけではなく、その場の進行にあわせて変わっていったのだろう。
 早川書房の世界SF全集版が出て、1977年に文庫改訂版が出ているが、どちらもロシア語からの重訳。今回の国書刊行会版がポーランド語からの決定版新訳ということになる。
by kkusube | 2006-05-28 09:04 |

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