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ナンバー938の呟き

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身の程知らずにもわずかばかりの知性をふりかざしてみたくて呟くのである

「神鯨」T・J・バス著

「神鯨」T・J・バス   433p
(2007.7.16~7.25)

 買った時から、何度か読みかけては中断していた作品である。新人の長編ながら、ル・グィンの「奪われた人々」やディックの「流れよ我が涙、と警官はいった」といった1975年のネヴュラ賞長編部門を競った問題作で、異形の未来を描いた作品である。
 ラリー・ディーバーという選ばれた遺伝子を持つ主人公達と、ロークァル・マルというサイボーグ鯨の漁船とが、中央情報処理施設クラス・ワンに支配されたハイブ時代という都市生活を送る小さな人類達と対立する情景を描く、醜く汚い未来。原始的な水棲人達は、ハイブから逃げ出したハーやハイブで育成されたア・-・ノ・ル・ドなどのディーバーのクローンに率いられ、ロークァル・マルとともに、ハイブの繰り出す艦隊やファーロングと戦う。
 グロテスクな未来小説。しかし内容はグチャグチャのグロテスク小説なのだが、読後感はさほどでもない。単純な娯楽小説に仕上げているので、描いている未来社会の人間を単なる淡白資源としてしか捉えていない状況や、人体実験の様子などは読みながら問題意識を感じるということがない。1970年代に書かれたにしては、いま読んでも面白い。
 サイボーグ鯨のロークァル・マルというアイディアがよかったのだろう。事実、タイトルの「神鯨」はロークァル・マルのことだ。しかも、ディーバーという主人公そのものが事故により下半身がない存在だったり、ア・-・ノ・ル・ドも遺伝子に必須アミノ酸の障害を受け付けられた欠陥人間だし、ハーも同じだ。この世界は欠陥人間だらけの異様な世界なのだ。
 本国で74年に出版されて、翻訳されたのが78年だから、当時としてはかなりアップ・ツー・デイトな作品だったのだろうが、残念ながら現在は絶版である。
 未来社会を描いたグロテスクな小説といえば、むしろ後年に書かれたマコーリイの「フェアリィ・ランド」の方がエロティックでグロテスクだ。
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by kkusube | 2007-08-15 20:50 |