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ナンバー938の呟き

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まったくのアホながら わずかばかりの知性をふりかざしてみんとて 呟くのである

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」

 どっさりと積読状態にあるフィリップ・K・ディックのSF小説を、月に1冊のペースで読んでみようと思いたった。読もうと読むまいとどうでもいいような内容の空想幻覚小説を書き散らしたディックという小説家のどこがいいのだろうか?一時のブームは一体なんだったのだろうか?映画原作にたびたびなっているのには、映画人を惹く何かがあるのだろうか?そのあたりを考えながら読んでいこうと思う。

 まずはハードカバー版の「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」。比較的初期の作品なので、ディックはドラッグに溺れてもいず、隣には気持ちを安らげてくれる女性が必ずいるという精神的にも破綻していない状況での作品である。
 人間ってさ、たいした能力もない生き物なのにちまちまとまぁよくやっているよね。褒めてやりたいものだ。というのが主題。そこにプロキシマから帰還したパーマー・エルドリッチが人類乗っ取りを仕掛けてくる。パーマー・エルドリッチ自身はどうやら悪神といういうべき宇宙生物に乗っ取られているらしい。防戦するのはキャンDという幻覚薬で暴利をむさぼっているP・P・レイアウト社のオーナーであるレオ・ビュレロ。この時代地球は灼熱化し、国連の施策で太陽系の他の惑星に強制的に移住させられていた。移住先の過酷な生活に、移住者たちは現実から逃避し、パーキー・パット人形の世界に浸ることで生命を繋いでいた。まさに大人が子供になって生きている世界である。ディックらしいSF的なガジェットも満載で、50年たっても色あせない物語ではある。これが最高傑作かといわれると、分からない。同じ年に書かれた「火星のタイム・スリップ」にしても、読むことで物語世界へトリップはできるけれど、決して感動が得られるような作品でもないし、何らかの読んだ上での得るものもないいわばナンセンスな世界なのだ。
by kkusube | 2010-01-15 13:48 |

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